奉納俳句選評
特選
一席 神領に一声放ち初鴉 杉原 功一郎
「初鴉」が新年の季題。鴉は古書『古事記』の神の代からその名がある。わが国では神の森を住み処とする。
よって霊鳥でもある。元朝の「一声放ち」により新しい年が始まる。
二席 白衣干す端に柿吊り御師の宿 千家 妙子
「白衣」は御師の礼装である。晩秋初冬のころ、物干竿にわずかな吊るし柿とともに天日に干してある趣。
御師の住居の暮らしの一端。
三席 囀のしきりの宮へ出仕巫女 辰巳 行雄
「囀」は早春の季題。夜明けとともに百舌が一斉に声を発する。
その時刻、早出の「巫女」が「宮へ」と「出仕」の道を急ぐ様子のようだ。
四席 むささびの住む宿守り老夫婦 林 みさき
「むささび」は一年中いるが冬の季題。人をそれほど恐れない。
「宿」の軒場に「住み」ついに「むささび」とともにある「老夫婦」のおだやかな暮らしぶりがしのばれる。
五席 大太鼓打って始まり元旦祭 原島 康典
わが国の各地の社殿の「元旦祭」はいずこも「大太鼓」の怒濤のような音響とともに「始まる」。
年の初めの緊張のひとときといってもいい。
選者吟 むささびと栗鼠棲み神の大欅 岡田 日郎