奉納俳句選評
特選
一席 御師の里晴れて戸毎に懸大根 鈴木 久美子
「懸大根」が冬の季題。大根は沢庵漬けにするため十日間位天日に干す。
丸太等で架を組むが、ここではそんな大掛かりでなく、一竿ほど庭に干している趣。御師の暮らしの一端。
二席 神楽果て霧に鎮まる御師の宿 川辺 幸一
「霧」は秋の季題。夜神楽が終わると参道は霧に包まれている。
幽かに滲む外灯を頼りに、一歩ずつ踏みしめる。神楽の余韻が窺える。
三席 むささびの鳴き山頂の月の宿 乗田 眞紀子
「月」といえば「秋の月」、我が国の「美の頂上」の一つ。
どこかで「むささび」の声がし、山頂に月が昇る。夜更けの静かなひと時であろう。
四席 奥宮の嶺の尖りや初御空 杉原 功一郎
「初御空」は元旦の空を崇めた言葉。
遙拝所から拝する奥宮の、いつも尖って見える嶺も年が改まると、なおさら荘厳さが漂う。
五席 餅投げで終る神楽や秋の空 麻生 ミドリ
御嶽神社に伝承されている太太神楽、最後にお餅が振舞われる様子。
いかにも楽しそうである。
選者吟 御師が里抜け道多し萩芒 岡田 日郎